「高校生のための学びの基礎診断」って何?その2

query_builder 2023/04/28
大学入試トピックス 進路情報 塾長ブログ

こんにちは! 佐倉高校生専門塾BROUTEの青木です。  


前回の記事で「高校生のための学びの基礎診断」について概要を書きました。

このテストの枠組みは、現在は9つのテストが認定されていて、自分の学力の把握や復習の材料として利用することを推奨されています。

今回の記事では、このテストの制定背景と問題点、今後について書こうと思います。


テストの制定背景

知名度の低さはなぜ?

「高校生のための学びの基礎診断」は、すでに全国の高校に導入されているテストの枠組みで、「大学入学共通テスト」とともに大学入試改革の柱になっているものです。


大学入試改革の柱となるものが、なぜこんなに知られていないのか。

それは「大学入学共通テスト」の方が大きく報道されたからです。


「大学入学共通テスト」は以前、大きな問題となったように、英語の民間試験を導入したり、記述式を導入したりと、試験の仕組みを大きく変えるものでした。

教育業界でも、記述式やライティング・スピーキングの対策の必要性が大きく報道されました。「センター試験がなくなる」という変更が何よりも大きなインパクトを生んだと思います。

それに対して「高校生のための学びの基礎診断」は、具体的なテストの内容がはっきり決まっておらず、あまり注目を集めませんでした。

名称が決まったのは2017年でしたが、その長い名称も注目されない原因かもしれません。


テスト制定の経緯

大学入試改革が決まった2013年の教育再生実行会議時点での改革内容を整理しておきます。


・センター試験(マーク式)を廃止し、記述式の試験を創設する。

・記述式の採点は人力でやると時間がかかるのでAIが行う。

・合教科型(数学と理科の融合問題など)の試験を行う科目を作る。

・英語の民間試験を導入し、スピーキングも含めた4技能を測定する。

・高校3年生時に複数回実施する。

・各大学の2次試験には、小論文や面接試験も導入する。

・高校1、2年時に受験する基礎学力テストを創設する。

といった提言がありました。


この段階では、センター試験に代えて新しいテストを2つ創設する構想になっています。いわば、センター試験の後釜<基礎編>と後釜<発展編>です。


当時の問題点としては、知識偏重のマーク式、主観的資料の調査書という2つが考えられていました。


1つ目は現在も声高に叫ばれている知識偏重試験。

急速にグローバル化する世の中では、知識だけではなく、主体的に学ぶことが必要で、そのために大学入試で「思考力・判断力・表現力」を見よう、というものです。これが記述式の解答形式の導入に繋がっています。


2つ目は調査書。

現在、高校在学中の成績や取得資格を記したものは調査書と呼ばれ、在籍高校が作成することになっています。高校の成績である「評定値」も記載されていますね。

ただ、生徒を選ぶ大学の立場からすると、調査書は生徒の学力を示す客観的な資料だとは言えません。

なぜなら、評定値は高校の中だけの指標だからです。


例えば、

偏差値65のレベルの高校に在籍する「評定3.5」の生徒と、

偏差値40のレベルの高校に在籍する「評定4.0」の生徒は、

どちらが優秀なのでしょうか?一概には言えないですよね?

センター試験のような全国規模の試験でなければ、生徒の学力を客観的に測定することはできません。そこで、高校1、2年生時に受験するような全国規模の試験を創設する計画が出てきたのです。


名前を変えた新制度

実際、高校選びの戦略として、高校受験時に自分の学力より低い高校に進学し、そこでよい成績をとって推薦を狙う、という手もありえます。


やはり、高校在学中の学力を客観的に測るためには、全国規模の試験が必要なのです。

2013年では、センター試験の後釜(基礎編)という程度の概念でしたが、2016年には「高等学校基礎学力テスト(仮称)」という名前がつきます。

名前の通り、高校在学中に受けることを想定したもので、国語・数学・英語の基幹科目を中心に、年に複数回実施することが計画されていました。


この時点で私は、センター試験の後釜という認識があり、このテストは「大学入試センター」が試験を作るものだと思っていました。


それが変わるのが2017年。

2017年に「高校生のための学びの基礎診断」と名前が変わると、いつの間にか、この試験を民間企業が実施することになっていました。


2013年時点では理想が高すぎた

2013年の時点では、教科を超えた試験や記述式解答とAIによる採点、複数回実施など、理想が掲げられていましたが、2017年になって現実を見てみると、センター試験レベルの大規模なテストを高校3年間で何度も行うなど、到底実現できそうにない内容でした。

そこで、高校1・2年生対象の基礎学力を見る試験は民間に任せ、センター試験に変わる「大学入学共通テスト」の中で、部分的に数問だけ記述式を導入したり、英語の民間資格試験を併用したりと、実現可能と思われる内容に調整されていきました。


記述式と民間資格試験の導入断念

しかしそれすらも実現には至りませんでした。

ここからは皆さんもご存知かと思いますが、2019年秋、翌年から予定されていた記述式と民間資格試験の導入が延期されました。


主な理由は採点の問題と、それに伴う公平性の確保が担保できないことです。

記述式の採点とは、本来は相対評価が原則になりますが、共通テストの性質上、絶対評価であることが求められ、それがアルバイト採点官には難しいだろう、という指摘がありました。

また、英語の民間資格試験も、受験機会や受験料の差が大きく、特に地域によって不公平がある、と批判がありました。


さらに、記述式の採点を行う採点官を集めた団体は、ベネッセの傘下であり、公的な性質の試験に一民間企業が深く関わるのはおかしい、という批判も多くありました。


その後、学習指導要領が変わるタイミングである、2025年度入試への導入が検討されましたが、結局のところ採点と公平性の問題は解決できず、完全に断念する結果となりました。


目的の変更

「大学入学共通テスト」での騒動を受け、「高校生のための学びの基礎診断」も目的が変更されました。


2017年までのこのテストの計画では、統一的な尺度で学力を測定できるテストとして扱われ、想定する2024年からは、高校の評定とともに大学入試や就職試験に活用することが考えられていました。

しかし、実際には民間企業に丸投げすることになり、文科省が公平性を担保するものではなくなりました。


当初の目的が果たせなくなったこのテストは、「試験時点での学力の測定と、苦手な単元や分野を見つけて復習のための材料にする」という単なる模試としての新たな目的が与えられたのです。

2019年のときは25種類のテストが認定されていた「学びの基礎診断」も、登録する民間企業が撤退し、2022年度からは9種類のみです。


今後の展望

現在、「高校生のための学びの基礎診断」として実施されているものはいくつかありますが、実質的にはベネッセの「スタディーサポート」のみが有効に活用されていて、単なる模試と変わらない性質のものです。

高校1、2年生が行う模試としては、今後も利用され続けると思います。特に「学びの基礎診断」として意識するものではありません。


「学びの基礎診断」に認定されている資格試験(GTECやケンブリッジ英検など)を大学入試に使うのは各大学の自由ですが、今後、「学びの基礎診断」という枠組みで入試に使われることはないようです。


まとめ

様々な教育的要請から創設された「高校生のための学びの基礎診断」ですが、現在は実質的に模試と同様のものです。

ただ、模試としてどのように活用するかは生徒次第であり、その取り組み方によって生徒自身に良い効果をもたらすものでもあります。


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